『ミセス・クロウコムに学ぶ ヴィクトリア朝クッキング  男爵家料理人のレシピ帳』

著 アニー・グレイ、アンドリュー・ハン
翻訳 村上リコ

 英国ヴィクトリア時代の料理を紹介する本の翻訳を手がけました。著者は『<公式>ダウントン・アビー クッキングブック』も書かれた食物史家のアニー・グレイさんと、イングリッシュ・ヘリテッジの歴史家アンドリュー・ハンさん。

 2008年、保護団体イングリッシュ・ヘリテッジが管理する元貴族の館「オードリー・エンド」の使用人区画が、1880年代のようすを再現する形で改装されました。そして、その時代に実際に働いていた使用人の情報を調べて、現代の俳優が「歴史解説員」として演じながら、仕事内容や生活ぶりを訪問者に紹介するプロジェクトがスタート。ミセス・クロウコムはそうした解説員の1人でした。(私自身もこの企画が始まって数年後に訪問しているのですが、平日だったためにお会いすることはできていません。残念)


 翌年にはミセス・クロウコム本人が残した手書きのレシピ帳が数奇な運命を経てイングリッシュヘリテッジに寄贈され、2015年からはヴィクトリア時代の料理の作り方を解説するYouTubeチャンネル「Victoiran Way」が始まって大ヒット。この動画はSNSで愛されているので、見たことがあるという方も多いのでは。


 本書は19世紀の男爵家料理人ミセス・クロウコムがノートに書き留めたレシピをベースに、アニー・グレイ氏が当時の食文化を代表する料理を選んで追加した「英国ヴィクトリア朝料理のレシピ集」です。料理の専門家と歴史家が試作と吟味をおこない、現代の家庭のキッチンでも作れるよう調整されています。実際に作れる料理なんて物足りない!もっと原液に近いものが欲しい!という方は最後の第6章をご覧いただければ幸いです。たとえば「レタスの砂糖漬け」は本編レシピ部分からは「選外」となりましたが、作り方は収録されていますよ。

 この巻末レシピ集には、ミセス・クロウコムの肉筆レシピ帳が、全ページほぼそのまま書き起こして掲載されています。現代とは異なる分量単位や温度指定、見たことのない材料、誤字脱字や文法ミスもほぼそのままだったので、読みにくさもご愛敬!(ここは訳しにくさも相当でした)


 当時のキッチンでの使用人の生活や、貴族の食生活、食べ物・飲み物の流通などに関するあれこれも解説されています。黒い鋳鉄の調理用レンジ、銅の鍋、陶器のボウル、木製の道具、時代衣装を着けた解説員のみなさんなど、写真も大きく美しく、胸が高鳴ります。

 これまでの私の仕事を楽しんでくれた方には大変おすすめの面白い内容ですよ。よろしくお願いします。

(2021年8月17日公開/2023年5月31日加筆修正)

著 アニー・グレイ、アンドリュー・ハン
翻訳 村上リコ
出版社 ホビージャパン 出版年月日 2021/08/20
ISBN 9784798625638 判型・ページ数 B5変
定価 3,520円(税込)
 ミセス・クロウコム(クロコンブ/クロコーム)は、ヴィクトリア時代のイギリスで男爵家の料理長を務めていた実在の人物です。
 イギリスの文化を全世界に紹介する企画として、現代の役者がミセス・クロウコムに扮して料理を作る英国発の動画シリーズがスタート。それが人気を博し、500万回に迫る視聴数を獲得しました。YouTube動画には日本語訳もつけられており、日本のイギリス史ファンには大きな話題となっています。その動画が書籍化され欧米でベストセラーに。そして今回、待望の日本語版として翻訳出版されます!
 140年の時を経てYouTubeスターとしてよみがえったミセス・クロウコム。男爵家のお屋敷で彼女が提供していた料理のレシピは手帳に残され、それを子孫が発見して今回の企画に結び付いたという背景も、歴史ファンには魅力的なエピソードです。
 レシピは、スープや肉料理のほか、スイーツやデザートまで約100種類。どれも現代のキッチンで再現できるよう調整されています。また日本語版では「ポンド」「オンス」などの英国の単位を、「グラム」「リットル」などに置き換えています。
 ミセス・クロウコムの生涯、ヴィクトリア時代の人々の食文化、当時の貴族の生活など時代背景も分かりやすく解説しており、英国料理と文化に興味のある人にとって必読の一冊です。[書誌情報より]

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