ビートン夫人と手書きのレシピ

『ビートンの家政の書』1880年代、家事使用人の章

 本棚からあふれ出たままの本をどうにかしないことには、新しい仕事に必要な資料が発見できない。確か持ってるはずなんだけど、どこにいったっけ、あの本……となり、資料部屋と画像フォルダを少しだけ整理した。そうしたら今は特に関係ないけど懐かしいものに行き当たる。1880年代の『ビートンの家政の書』。

執事


ハウスメイド

 確か2013年に、グラスゴーのダンジョンのような古書店で見つけたもので、表紙から冒頭部分のページがだいぶ欠けているため格安だった(20ポンドもしなかったはず)。この本から図版をいくつか『英国社交界ガイド』に紹介したが、なにぶん欠けているし埃もすごいので、本文の内容を読むときには結局Internet Archiveでデジタル化されたものを使っている。

Cokernut Iceの作り方

 買ったときにも、仕事で使っていた時にも気づかなかったけれど、ページのあいだに誰かの書いたレシピが入っていた。ミセス・クロウコムの場合とは違って、どこの誰が書いたメモかはたぶん永遠にわからない。タイトルはCokernut Ice(ココナッツの古い綴り)。そして材料のひとつめにloaf sugar(棒砂糖)が含まれているのが目を引く。

Ormesby Hallのキッチン、2018年訪問

 ローフシュガーとは精製して円錐状に固めた砂糖のことで、ヴィクトリア時代にはこの状態で購入し、各家庭で砕いたりすり潰したりして、料理に合った形で使っていた。英国で過去の様子を再現したカントリーハウスのキッチンやスティルルームに行くと、この大きな棒砂糖のレプリカが堂々と飾られているのによく出会った。ハンドルを回す丸いナイフクリーナーや洗濯物の絞り機、そして「アンティークなビートン夫人の本」と並べて「置いておけば手軽にヴィクトリアンな雰囲気が出る」便利なアイテムなのだと思う。

 19世紀の料理に関する本を翻訳する機会を得たいまになってから読み返すと、8年前には素通りしていた部分が気になってくる。こういうことがあるから、やっぱり資料部屋の片付けは進まない。


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