オープン・ハウス・ロンドンの思い出(Sands Films Studio)

Sands Films Studio, 2019


 ツイッターを開いたら、ロンドンにいるどなたかかが「オープン・ハウス・ロンドン」に参加している様子をツイートしていて、うらやましく、懐かしく、切なくなった。


リフォーム・クラブ、2016年

外務省、2016年

モールバラ・ハウス、2017年

 オープン・ハウス・ロンドンは、新しいもの、古いもの、公共の建物、個人の家、遺跡、美術館、劇場、最新の高層ビルまで、ロンドンと近郊の数百の建築を一般公開する催しで、例年1回、だいたい9月の半ばあたりの週末に行われる。ここ数年は時期を合わせて旅行して、会員制紳士クラブ、外務省、裁判所、現在も人が住んでいる個人邸など、いろいろなところを見せてもらった。ロンドンに住む人のためのイベントなのだろうけど、興味本位の観光客でもやさしく迎えてもらえる。


サンズ・フィルムズ・スタジオ、2019年


 なかでも心に残っているのが、2019年に訪れた「Sands Films Studio」というところ。ロンドンの東のはずれ、テムズの南岸の住宅街にある。1780年代の穀物倉庫だったというレンガ造りの建物のなかに、映画・ドラマの衣装を製作するアトリエ、図像資料アーカイブ、イベント用の小劇場、映像配信用のスタジオなどがぎゅっと詰まっている。


衣装部屋

 低い木の梁――ひょっとすると200年以上昔の――の下にいろんな時代の衣装が並んでいる。

窓際のボンネット

 夢のような空間に思えた。


映画の衣装


 上映会や撮影に使われる劇場(これがまた小さくて美しい)のステージに、製作を担当したというコスチュームが飾られ、『トプシー・ターヴィー』『マリー・アントワネット』、2019年版『Little Women(邦題:ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語)』などのものが並んでいた。シアーシャ・ローナンのジョーが着ていた印象的な赤のケープ。

 一番新しい『若草物語』の作中で、ジョーやローリーが身に着けていたすごくオシャレな――時代のコードはかなり破った――衣装が、あの18世紀の古めかしいレンガ造りの建物から送り出されたと想像すると、なんだか少しおもしろい。でも、ふさわしいともいえる。古くて美しいものを愛する人たちが(間違いなく、愛にあふれた空間だった)、いまとなっては使用に耐えない古くて美しいものを、補修して、組み合わせ、付け加え、別の価値を持たせて送り出すという。何度も何度も古典を作り直すということは、そういう営みであるんだろう(語り直すばかりでなく、もっと新しい物語を作ればいいのに、という意見にも、確かに一理あるけれど)。




 それはそれとして、お人形に交じって梁の上から見守ってみたかった。


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